はじめに – 今宵の一献

今宵、私が選んだのは「楽器正宗 混醸 山田錦」。多くの日本酒が力強い筆文字でその銘を主張する中、このお酒のラベルは、楽器を奏でる着物姿の女性が描かれた、ひときわ目を引くデザインです。日本酒のラベルの世界において、良い意味で異彩を放っています。
こちらは火入れ処理がされているため、購入後も冷蔵庫での保管で品質が安定し、瓶内での再発酵の心配がありません。味わいは、日本酒度が示す甘味もほんのり感じ、酸味も穏やか。突出した個性はないものの、その調和の取れた味わいは、まさに幅広い層に受け入れられる万能な一本と言えるでしょう。
日本酒名 | 楽器正宗 混醸 山田錦 |
酒造/都道府県 | 合名会社 大木代吉本店 / 福島県 |
特定名称 | 純米吟醸 |
精米歩合 | 60% |
アルコール度数 | 15度 |
使用米 | 播州山田錦94% |
日本酒度 | -4 |
酸度 | 1.2~1.4 |
製造年月 | 2025年4月 |
状態 | 火入れ |
購入店舗 | IMADEYA 千葉エキナカ店 |
価格(税込み)/購入日 | 2082円/5月29日 |
楽器正宗の特徴 – 進化する醸造文化

楽器正宗の定番といえば、「本醸造中取り」。しかし今回手にしたのは「混醸 山田錦」でした。実はこちらの二つ、ラベルのデザインが非常に似ているのです。
楽器正宗の公式サイトでは、その酒造りを「醸造文化を進化させたお酒」と表現しています。日本酒は大きく分けて、醸造アルコールを添加しているか否かで分類できます。
- 醸造アルコール添加あり: 本醸造と表記
- 醸造アルコール添加なし: 純米酒、純米吟醸、純米大吟醸と表記
醸造アルコールを添加する主な目的は、製造コストの抑制です。一方で、風味が損なわれるといった意見や、「昔ながらの安酒」というイメージを持たれることもあります。しかし、醸造アルコール自体は決して悪者ではなく、その使用方法が重要と言えます。
一般的に、醸造アルコールが添加された日本酒は一段低く見られがちですが、楽器正宗はその常識を覆す美味しさだと聞いていました。そのため、本来は「本醸造中取り」を試したかったのですが、訪れたIMADEYAでは残念ながら見当たらず。「混醸 山田錦」が並んでいたものの、「本醸造中取り」と思い込んでいたので、開栓するまでその違いに気づきませんでした。(「本醸造中取り」との出会いは、またの機会に楽しみにしたいと思います。)
ちなみに、こちらが本醸造中取りのラベルです。笛を吹く舞妓さんの角度や、描かれているのが上半身のアップか全身かという違いはありますが、グリーンを基調としたデザインは共通しており、非常に良く似ています。
いざテイスティング– 全ての要素が心地よく調和

グラスに注がれた楽器正宗 混醸 山田錦を前に、まず感じたのはその調和の取れた佇まいでした。一言で表すなら、「まとまった味」。さまざまな日本酒の味わいを構成する要素、例えば米の旨味、穏やかな酸味、かすかな甘さ、そしてアルコール感。このお酒には、それらが突出することなく、見事なバランスで共存しているのです。まさに、洗練された調和という言葉がふさわしいでしょう。
さらに特筆すべきは、ほんのわずかに感じるガス感です。強いて表現するなら、炭酸のようなシュワシュワとした刺激というよりは、「ピリッ」とか「チクッ」といった、舌の上を微かにくすぐるような感覚。これは、炭酸ガスならではの心地よい刺激と言えるかもしれません。
しかし、裏を返せば、この絶妙なバランスが、特定の味わいを強く求める方には物足りなく感じる可能性も否定できません。「日本酒には強い酸味があってほしい」といった明確な好みを持つ方にとっては、この穏やかな風味が、かえって個性のなさと捉えられてしまうかもしれません。
五感で味わう – 記憶に残る香りと、軽快な味わい
香り – 開栓と同時に広がる、華やかなブーケ

テイスティングの開栓の瞬間、華やかな香りで満たされました。これまで数々の日本酒を嗜んできましたが、開栓したその瞬間に、これほど鮮烈な香りが立ち上った経験は、決して多くはありません。
一般的な日本酒で例えられることの多い果実の香りというよりも、花束のような優雅さでした。蜜のような甘美な香りを持ちながらも、どこか瑞々しい、ラムネが弾けるような清涼感も感じられます。
甘ったるさやくどさは一切なく、あくまでも上品で、記憶に残る香りでした。
味わい – フルーツバスケットのような、軽やかな甘み

口に含むと、その味わいはまさにフルーティー。軽快でスムーズな飲み心地です。例えるなら、熟したメロンや、みずみずしいマスカットをかじった時のような、そんな芳醇な果実味が広がります。
その甘さは決して重くなく、すっと喉を通り過ぎ、鼻腔に抜ける香りの余韻とともに、心地よく消えていきます。それは、淡麗でありながらも、しっかりと存在感のある味わいです。
食中酒としても楽しめますが、この「楽器正宗 混醸 山田錦」の繊細な個性を最大限に引き立てるような料理との組み合わせを試してみたくなります。
例えば、新鮮な白身魚のお刺身や、その爽やかな酸味から、カルパッチョとの相性も抜群ではないかと想像できます。
様々な飲み方を試して – そのまま味わうのが一番
今回の「楽器正宗 混醸 山田錦」では、あえてロックと炭酸割りという飲み方も試してみました。結論は何も手を加えず、冷やしてストレートでいただくのが最適解だと感じました。ロックや炭酸割りは、お酒が持つ繊細な美点を覆い隠してしまう。そんな風に感じました。
ロック – 香りの個性を閉じ込めてしまう飲み方

楽器正宗をロックで試してみました。決して飲めないわけではありませんが、このお酒の特筆すべき魅力の一つである、華やかで繊細な香りが氷によって閉じ込められてしまうように感じました。
氷が溶けることで風味が薄まってしまう上、冷えすぎることで香りの立ち上がりも鈍くなります。せっかくの個性が、影を潜めてしまう印象を受けます。
炭酸割り – 強すぎる刺激が繊細さを打ち消す

炭酸割りには、ウィルキンソンを使用してみました。普段、日本酒ハイボールは好んで飲むのですが、「楽器正宗 混醸 山田錦」に関しては、あまりおすすめできる飲み方ではありません。
ウィルキンソンという強炭酸を使ったことが要因かもしれませんが、このお酒が持つ繊細な香りが、炭酸の強いシュワシュワ感によって完全に覆い隠されてしまいました。
一般的に、日本酒の香りは炭酸の気泡に乗って立ち上がりますが、今回は炭酸の勢いが勝りすぎました。繊細な香りが持ち味の楽器正宗を炭酸で薄めてしまうと、その魅力は半減してしまいます。
開栓直後のフレッシュな状態では、ぜひ冷やしたストレートでその香りと美しい風味に使って欲しいです。もし開栓から時間が経ち、風味が落ちてきた際には、炭酸割りで最終的に楽しむ、というのが賢い飲み方かもしれません。
総評 – 私にとっての[楽器正宗 混醸 山田錦]:★★★★☆

口当たりが柔らかく、とても飲みやすい日本酒です。飲み始めは心地よいなめらかさがあり、後半にかけてフルーティーな味わいが広がります。全体的に非常に統一感があり、素晴らしいハーモニーを奏でているような一杯です。
まさにバランスの取れた、調和のとれた味わい。口の中で音楽が奏でられているかのように感じられます。個性が際立つことで尖った音楽が生まれることもあるように、お酒にもさまざまなタイプがありますが、「楽器正宗」はまるで全ての楽器が足並みを揃え、見事に調和した演奏を聴かせているようです。
そのため、日本酒をこれから楽しみたいという初心者の方にも自信を持っておすすめできる一本です。
まとめ
今回の「楽器正宗 混醸 山田錦」との出会いは、ちょっとしたハプニングからでした。購入当初は「本醸造中取り」だと勘違いし、帰宅し改めてラベルを見るまで「混醸 山田錦」だと気づきませんでした。我ながら笑ってしまうようなミスでしたが、結果的にはこの美味しい日本酒に出会えたので、大満足です。
自分自身、「THE日本酒」というような、いわゆる昔ながらの日本酒はあまり得意ではないのですが、この「楽器正宗」はそうしたタイプとは一線を画しています。非常にバランスが良く、口の中で心地よいハーモニーを奏でてくれるような味わいは、日本酒初心者の方にも心からおすすめできる一本だと感じました。
もし酒屋さん・飲食店で見かけることがあれば、ぜひ一度、手に取ってみてください。きっと新しい日本酒の魅力に出会えるはずです。